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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)213号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)、三(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

二 そこで、まず、原告主張の取消事由のうち、一致点の認定の誤りの主張について判断する。

1 原告は、審決が「本件考案において、ステンレス線は、突条を構成する」とし、本願考案のステンレス線と引用考案の突条とが構成の点において一致するものとした点について、本願考案におけるステンレス線は、引用考案における突条とは別のものであるとし、その理由として、引用考案における突条は、通常の判断では、液体差し本体と一体成形の方法で製造されたものとみなすべきであるのに対し、本願考案においては、ステンレス線は、液体差し本体とは別個に製造されたものであると主張する。

2 成立につき争いのない甲第七号証によれば、引用例には、実用新案登録請求の範囲として「流出孔内部流出方向に突条を設け、さらにこの突条を、容器内に適宜延長垂下させた、余滴の落下しない液体用容器」との記載があり、この突条については、考案の詳細な説明において、「容器1の蓋2に設けた注出口3の流出孔4内部に流出方向に突条5を設け、さらにこの突条5を、容器1内に適宜延長垂下させたものである。」(甲第七号証、2欄二行から五行)との記載があることが認められ、この記載及び引用例の第1図、第3図及び第4図によれば、引用例のいう流出孔は、液体差しの容器の一部である蓋に設けられた注出口にあることが認められる。従つて、引用例における突条は、液体差しの蓋の一部をなしている流出孔の内部に設けられたものを含むことが明らかである。

3 ところで、引用例のいう「突条」のうち「突」は、「つきでたもの」を、また、「条」は「すじ」又は「線状のもの」を意味することが明らかである。そうすると、通常の意味において「突き出た線状のもの」という場合には、その「もの」は、突き出た基盤となる本体から分離した別個の存在ではなく、当初から本体と一体に成形されたと、本来別の部材を本体に付着したものとを問わず、その本体の一部をなして線状に突き出たものということができる。次に、引用例のいう「に……設け」とは、「に……そなえてこしらえる」ことを意味することが明らかであつて、引用例の実用新案登録請求の範囲にいう「流出孔内部……に……設け」とは、「流出孔内部に……その一部として設備(ないしは手段)を作る」という意味を持つことになる。そうすると、ここで作られたものは、通常の意味では、少なくとも、流出孔内部表面と接触している状態にあるものをいうと解することができる。

以上の認定によれば、引用考案における「突条」は、その本体と一体となつたものを意味し、さらに、「設け」もその本体と分離せず、これと接した状態を表現するものであるから、結局、「流出孔内部……に突条を設け」るとは、当初から流出孔の内面と一体に成形するか、流出孔を有する蓋体とは別の部材を付着させるかは問わないが、流出孔の内部に、流出孔内部表面から、この流出孔が形成されている注出口がその一部となつている蓋と一体となつて線状に突き出たものを作ることをいうものといわなければならない。

4 一方、当事者間に争いのない請求の原因二(本願考案の要旨)によれば、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、「容器本体と蓋とからなる液体差しにおいて、蓋の内部に収納した液体の薄膜を形成可能なすきまを有する二本の平行なステンレス線の先端部を、注ぎ口内に注ぎ口の内側に平行に突出させる」こと及び「一方または双方のステンレス線を狭いすきまを介して蓋の内面と接せしめ、先端部から下降部にかけて該ステンレス線に沿つた蓋の内面とステンレス線との間の連続した狭いすきまからなる液体通路」を形成することを要件として含むものであることが認められ、また、成立につき争いのない甲第二号証、甲第三号証、甲第五号証によれば、本願考案のステンレス線の先端部は、液体差しの蓋に設けられた注ぎ口にまで伸び、上記登録請求の範囲に記載されている「すきま」は、ステンレス線と注ぎ口との間にも設けられたものであることが認められる。

5 そうすると、本願考案においては、ステンレス線と注ぎ口の内面との間には「すきま」があつて、注ぎ口がその一部をなす蓋体とは、明らかに分離されたものであるのに対し、引用考案の突条は、少なくとも、流出孔内部表面、即ち注ぎ口の内面に接触していて、その間には「すきま」がなく、蓋体に設けた注ぎ口の内面から線状に突き出たものであるということができる。従つて、本願考案において「ステンレス線は、突条を構成する」とし、本願考案と引用考案の「両者は、蓋体内に設けた突条により、液だまりが防止された食卓用液体差しとして共通」するとした本件審決は、本願考案と引用考案との相違点を看過したもので、この点において誤つているものといわなければならない。

6 被告は、本願考案のステンレス線は、注ぎ口の内面にあつて、その内面から突出したものであつて、表現を変えれば、注ぎ口の内面に形成した突条であるということができると主張する。

しかし、本願考案の要旨における、「ステンレス線の先端部を、注ぎ口内に注ぎ口の内面に平行に突出させる」とは、「蓋の内部に収納した」ステンレス線の先端部を、注ぎ口の内面に平行に、注ぎ口内面を含む蓋の内面と狭いすきまを形成するように、蓋本体内部の空間から注ぎ口内の空間へ、突出させるとの意味であつて、注ぎ口の内面から突出したものではなく、引用例の「突条」のように、注ぎ口の内面から注ぎ口内の液の流路の方へ突出させるものとは全く異なるから、表現を変えて、注ぎ口の内面に形成した突条であるということはできない。

7 被告は、引用考案は、突条が、蓋体と一体になつたもののみでなく、別個に製造された場合を含むと主張し、その理由として、引用例の記載からみて、引用考案においては、注ぎ口の内面の突条に沿つて毛細管現象を発現するすきまが存することは明らかで、このためには、注ぎ口と突条の間にごく幅の狭いすきまの存在することが必須であると考えられることから、突条と蓋体とは、別個に製造された場合を含むと述べ、さらに、引用例の図面の表示から、引用例の実施例のものは突条と蓋体とが別個に製造された場合を含むものとみられると述べる。

引用考案における「突条」が、当初から流出孔の内面と一体に成形するか、流出孔を有する蓋体とは別の部材を付着させるかは問わないことは前記認定のとおりであり、その点は被告の主張するとおりである。

また、前掲甲第七号証によれば、引用例には、引用考案の詳細な説明に「液は毛細管現象によつて突条を伝つて流出孔から……逆流し」との記載があることは認められ、また、毛細管現象の発現にはごく幅の狭いすきまの存在が必要であることは、当裁判所に顕著である。

しかし、既に認定のとおり、引用考案においては、その実用新案登録請求の範囲において用いられている場合の「突条」は、流出孔内部において、流出孔を形成する蓋体との間にすきまのないものに限定されることが明らかであるうえ、突条が流出孔内部において、蓋体と接触していてその間にすきまがないとしても、突条の形状によつては、流出孔内部表面から突条へ移行する部分に突条に沿つてくぼみが生じ、その部分に毛細管現象が発現する可能性は十分考えられるから、引用考案において突条が流出孔内部において蓋体との間にすきまがないと解しても、毛細管現象の発現と矛盾するものではない。

したがつて、右被告の主張が、引用考案における突条が、注ぎ口内面との間にごく幅の狭いすきまが存在し、突条と注ぎ口内面とは直接接していない場合を含むとの趣旨であれば、右主張は採用できない。

8 また、被告は、審決は、本願考案と引用考案において、液体通路の形成箇所(本願考案は、ステンレス線同志のすきま及びステンレス線と注ぎ口内面とのすきまであるのに対し、引用考案においては、突条と注ぎ口内面とのすきまである。)の点で相違すると認定しており、審決に相違点の看過誤認はないと主張する。

審決が、注ぎ口の内容液が容器内に逆流するための液体通路についての本願考案と引用考案の相違点として、本願考案では、ステンレス線同志のすきま及びステンレス線と注ぎ口内面とのすきまであるのに対し、引用考案においては、容器内に延長垂下部を伝わつて、流出孔から容器内に至るものである旨認定していることは、前記請求の原因三(審決の理由の要点)3Bのとおりである。

しかし、審決の相違点Bについての判断における、「液体通路を形成する突条は、毛細管現象によるべく、容器、蓋あるいは、その注出口の形状、位置等に応じて、当業者が適宜設計しうるところである。」との記載及び「本件考案の液体通路(1)、(2)は……すきまを、突条と蓋の内面、更に突条同志に設けたものであつて、そのようなことは、当業者が、きわめて容易に想到し実施しうるところである。」との記載から、審決が、本願考案のステンレス線が突条であり、かつ突条である点で引用考案のものと共通していることを前提としていることは明らかであり、審決に相違点の看過誤認がないとはいえない。

三 以上の通り、審決の一致点の認定の誤りを理由にその取消しを求める本訴は、その余の主張について判断するまでもなく理由があるので、これを正当として認容する。

〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。

容器本体と蓋とからなる液体差しにおいて、蓋の内部に収納した液体の薄膜を形成可能なすきまを有する二本の平行なステンレス線の先端部を、注ぎ口内に注ぎ口の内面に平行に突出させると共に、先端部に続く部分を下方に屈曲させて下降部として蓋内に固定し、かつ一方または双方のステンレス線を狭いすきまを介して蓋の内面と接せしめ、先端部から降下部にかけて該ステンレス線に沿つた蓋の内面とステンレス線との間の連続した狭いすきまからなる液体通路と、二本のステンレス線間のすきまからなる液体通路とを形成したことを特徴とする食卓用液体差し

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